アシ

 

「裁判所の方ですか?」とかなり滑舌の悪い男から電話がかかってきた。(携帯なのに裁判所なわけねーでしょ)と思い、「いいえ、違います」とブチっと切った。電話番号を検索したら警察署だった。

次の日、警察署から再び電話がかかってきた。「6月に届出を出していただいてた自転車が見つかりました。いつ頃取りに来れそうですか?」という内容だった。もう見つからないだろうと思っていた自転車。届出を交番で出したときに「防犯登録がこの県ではないので難しい」と言われた。防犯登録は各県ごとに違うのは分かってたけど、どんな意味を持つのかさっぱりだった。錆びていたし、電気はつかないし、就活で東京へ行って帰ってきて、とめたはずの駐輪場を5周したりして探したけども、なかったので諦めていた。「明日、晴れたら取りに行きます」と答えた。

次の日、とても晴れた。自転車に乗って帰るつもりで歩いて警察署へ向かった。私が予想していた警察署は、市役所だったので思いっきり通りすぎていた。10分遅刻して警察署にたどり着き、手続きをして私は自転車を取り戻した。前輪に空気が入ってなかったり、黄色い札が張られていたり、予想より錆びていた。歩いて引いて帰ってきた。

自転車を盗まれていた間、同じアパートの子がアパートにある放置自転車を綺麗にしてくれて、使えるよ!と言ってくれた。ありがたく使わせていただいてた。電気は着くし、錆で鍵がかからないこともない。強いて言えばブレーキをかけるとき、「キキィイィィィ」とうるさいのに困ったくらいで元々乗ってた自転車よりずっとずっと使い心地がよかった。あと、防犯登録をしてあったので、警察に捕まったとき、私は盗難で被害届を出しているくせに、放置自転車を使用しているということが、窃盗に値してしまうのではないかという不安はあった。

自転車一台盗まれたと、親戚や大人に伝えれば、「自転車あげる?」と色んな人から手を差しのべられたが、あと半年も乗らない自転車をこのアパートへ増やしても放置自転車になりそうな未来が予測されたので断り続けた。そんな三ヶ月だった。

見つけてくれた人、代わりを探してくれた人、提供してくれた(しようとしてくれた)人たちがたくさんいてありがたかった。

錆と空気の入らない前輪のタイヤを見て、これを再び使うか悩んでいる。なにはともあれ、一度手放した気でいたものがこうして戻ってくるということがありえるんだなあとしみじみ思った。